Interview #01エヴァンゲリオンが証明した、フォントのチカラ

フォントワークス株式会社

「時に、西暦2015年」ーー。

黒の背景に浮かんだ極太の明朝体。TVアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」の第壱話冒頭、壮大な物語の始まりを告げるワンカットに選ばれたのは、絵ではなく文字だった。物語の各話タイトルはじめ、作中の様々なディテールに用いられたその文字のデザインは、いつしか視聴者の脳裏に焼き付けられ、作品を象徴するひとつのイメージとして認識されていく。アニメ当事者以外の立場からエヴァに接触し、作品と深くリンクする人々にフォーカスする新連載「route 2015」第1回は、この明朝体『マティス』をリリースしているフォントメーカーの人々の物語をお届けしよう。

(左)

LETSプロジェクト マーケティング本部 次長
三原史朗氏
DTP系販売店を経て'00年にフォントワークス入社。放送業界・ゲーム業界などデジタルコンテンツ全般の営業活動・サポート業務に奔走する。

(右)
執行役員
LETSプロジェクト R&D本部 本部長
柴田和彦氏
'93年にフォントワークスジャパン(現フォントワークス)を設立。フォントの年間ライセンス製品「LETS」をはじめ、各種フォントやユーティリティの開発を手がけた。

極太のモダンスタイル明朝体『マティス』の生い立ち

福岡県で1993年に創業したフォントワークス。デジタルフォント(書体)メーカーとして、現在業界No.2のシェアを持つまでに成長を遂げた同社が世に最初に送り出した明朝体こそ、『エヴァ明朝』の異名を持つ明朝体『マティス』だった。その開発現場にいたのが同社創業の張本人であり、現執行役員の柴田和彦氏である。

柴田:「『マティス』は弊社創業メンバーであり、デザイナーの佐藤俊泰が監修した書体です。そもそも弊社の創業当時は、MacによるDTPの黎明期でした。それまであらゆる紙媒体の文字は、主に写植というアナログな製版技術で印刷されていて、これがMac1台で完結できる時代に切り替わろうとしていたんですね。しかし日本語は英語と違って文字数がケタ違いに多いし、字組みにも漢字と平仮名の絶妙なバランスを要します。フォント開発には膨大な時間がかかるので、従来の歴史ある写植メーカーさんたちも、一気にDTPへ参入というわけにはいかなかったんです」

日本のデザイナーたちがDTPを導入し始めた90年代前半、使える日本語フォントはごく限られていた。 

柴田:「明朝体でいうと、Macユーザーなら写植の世界からデジタルに参入したモリサワさんのリュウミン。Windowsユーザーなら、いかにもデジタル然としたリコーさんのMS明朝がなじみ深いものでしたね。しかし創業当初からDTPの普及を見越していた我々は、そのどちらでもない、もうひとつの形に必ずニーズがあると思っていました。例えばリュウミンはオールドスタイルですが、『マティス』はモダンスタイルに近いデザイン。やや古さも残しつつ現代風…というのが正しいのかな。モダンスタイルの文字は、写植の世界でも流行していた時期があったんです。しかしDTP初期には、そのあたりの匂いを持つ日本語フォントがすっぽりと抜け落ちていたんですよね」

取材当日に持ち込まれたエヴァンゲリオン関連グッズ。そのほとんどがふたりの私物である。

『新世紀エヴァンゲリオン』に採用された書体『マティス』のバリエーション(同社カタログより)。

Column

  • 01
    写植とは?

    『写真植字』の略で、MacによるDTPが登場する以前の印刷物に用いられていた文字の版下を作る技術。写真の原理を使って、このようなガラスの文字盤に光を当ててシャッターを切り、文字盤の下に敷いた印画紙に文字を一字ずつ焼き付けていく。文字の大小などはレンズを変えることで表現され、いずれの作業も職人の技やセンスを要した。

  • 02
    DTPとは?
    「DeskTop Publishing」の略語で、出版物の原稿・デザイン・レイアウト作成や編集作業をパソコン上で行い、その作成データをプリンターで出力し出版すること。DTPの登場によって、印刷物の作成において従来分業化されていた作業工程がパソコン1台で行えるようになり、日本では'90年代前半から普及が始まった。しかし日本語は欧米のアルファベットと違いフォント1書体あたりのデータ量が大きく、その黎明期に使用できた書体数は限定されていた。