Interview #01エヴァンゲリオンが証明した、フォントのチカラ

フォントワークス株式会社

フォントが自由に使えれば、現場はクリエイティブに集中できる

フォント使用におけるガイドラインが各社異なり、なおかつ複雑化している日本では、それがアニメ制作現場において厄介な問題に発展するケースが多々あったという。

三原:「フォントの二次使用料金をどこが持つか、というのがそのひとつですね。フォントを使ったスタジオが持つのか、それともTV局やDVDの販売元が負担するのか。例えば、文字を打つ編集会社が無意識にフォントを使用してそれが製品化されてしまい、後にフォントメーカーからアニメ制作会社さんに対して莫大な使用料が請求される…といったケースもあったと聞いています」

柴田:「我々はそういうことが作り手の障壁にならない環境を整えたかったんです。そこで弊社が他社さんに先駆けて'02年に発売したのが、デジタルフォントの年間ライセンス製品『LETS』でした」

三原:「フォントを使うのに一次も二次もない。それがデジタルに特化してきた弊社の考え方です。『LETS』の場合、契約期間内なら提携中の全フォントを自由に使ってもらえます。しかも期間内に作られた成果物に対しては、その後DVD化などの再販を行っても基本的に二次使用料金をいただきません。その他想定される様々な利用シーンに対応したガイドラインを、カタログ内に○と×ではっきり記載しているんです。似たような製品は以後他社さんからも発売されましたが、これだけルールが明確なのは未だに弊社だけだと思います」

柴田:「日本より早期にDTPが普及したアメリカでは、似たようなやり方がずっと以前に確立していました。『LETS』のシステムは、そういった海外の手法を参照しつつ、日本の事情を踏まえて構築しています。そもそもフォントって、一度売ったらそれでおしまいの商品ですよね。世の中に存在するデザイナーの数を考えたら、そのビジネスモデルが頭打ちになることは90年代から見えていたんです。しかもソフトが高価だから、全てのデザイナーが豊富なフォントを使えるわけじゃない。そこはデザイン発注する側にとってもストレスだったんです。開発当時は『色鉛筆構想』と呼んでいたんですよ。8色の色鉛筆より、32色の色鉛筆があった方がイメージも広がるよねと」

三原:「そもそもフォントなんて、使って初めて意味を持つものですからね。たくさんのフォントがストレスなく使えれば、現場の方もクリエイティブに集中していただくことができます」

柴田:「それは我々にとっても同じなんです。多くのメーカーが二次使用料金を取るのは、新しいフォントの開発にお金が必要だから。弊社も現在はひとつの日本語フォントにつき2万字以上を制作しますが、その開発期間は平均して1年半。モノによってはそれ以上かかることもあります。でもライセンス契約である程度継続的な収益が見込めれば、我々にも予算が立つし、新しいフォントを安定供給できるんです」

LETS契約ユーザーにおけるフォントの使用範囲については、カタログ内でこのように単純明解に説明されている。

過去にドコモから発売されたエヴァ携帯は、画面表示フォントとして『マティス-EB』がインストールされている徹底ぶりだった。また、取り扱い説明書などアイテムの隅々まで『マティス-EB』の使用が徹底されている。

Column

  • 05
    平仮名のデザイン

    ひとつのフォントの製作期間は、平均して1年半程度。数名の制作担当者が2万字以上の文字を1文字ずつ数ヶ月かけて地道に制作していく。ちなみにそのデザインにおいて最も時間を要するのは、書体の特徴が表れやすい平仮名のデザインだという。写真は同社主催のセミナーにおいて、フォント『筑紫アンティークS明朝-L』における仮名デザインの特徴を解説するために用いられた図。「ジェットコースターの勢いが最後に溜まるように」など、そのひとつひとつのディテールが豊かな言葉で解説されているのが面白い。