Interview #01エヴァンゲリオンが証明した、フォントのチカラ

フォントワークス株式会社

熱心なアニメファンたちが、『マティス』を探し当てた

エヴァを視聴するファンを毎回ハッとさせた、各話タイトル画面のL字型のあの字組み。それが市川崑監督の手法に対してのオマージュであったことは、庵野秀明監督自らが公言している。例えば市川監督の映画『犬神家の一族』に代表される冒頭のスタッフロールは、監督自身が書体を吟味してレイアウトを考案しており、その躍動感は文字だけで観客を物語に没入させる力があった。エヴァのヒットを機に、後の数年間は太い明朝体デザインを意識的に使ったCMや広告、ドラマなどが増えたことも周知の事実だ。

三原:「アニメにおいて自分たちが本当に目指す文字表現をするために、庵野監督はDTPを使ってすべてを自分の手元で行うという新しい手法をとったわけです。その先駆者だったんですよね」

柴田:「我々にとっても、アニメが理由でフォントが売れるという現象はすごく新しかったし、面白かった。フォントってデザイナーが使うものでしたから、普通そんなに突出した売れ方はしないんです」

エヴァのあの明朝体はどこで買えるのか? TV放映以後『マティス-EB』を買い求めたユーザーの多くは、同人誌制作などでDTP環境に親しんでいた熱心なファンだったという。

柴田:「もちろんあれが、当時無名だったフォントワークスの『マティス』だなんてどこにもクレジットされていなかったし、ソフトも高価だったので店頭には置けませんでした。それでも、ネットも普及していない時代にファン自ら能動的に調べて、製品を探し当てて下さったんです。そもそも活字や写植の時代から存在する大手他社さんに、新参者のうちが紙媒体で太刀打ちできる状況ではなかったですからね。そのころは、ゲーム会社さんとの取引に力を入れていたんですよ。ちょうどセガサターンなど新世代ハードが誕生したころでしたから」

三原:「『マティス』を機にアニメ制作会社さんにも少しずつ名前が知られて、エヴァの次は'04年公開の大友克洋監督の映画『スチームボーイ』で使っていただきました。あの作品で初めて、エンドロールにうちの名前が出たんです」

ガイナックスから発売されたゲームソフト『鋼鉄のガールフレンド』パッケージの裏側。マティスを使い、文字に強弱をつけながらキーワードを配置するこのデザインも、ファンの創作意欲をおおいに刺激した。

過去に発売されたTV版のDVD-BOXは、柴田氏の私物。そこには『2015』の文字が。