通販で大当たりした
アニメ・ビジネス
手塚氏が新たな配属先パルコ・シティで迎えた最初の転換点。そのきっかけを作ったのは、通販サイトのシステム開発を請け負っていたとある男性だった。
「いわゆるオタク文化に精通した人。彼が昔勤めていた会社でアニメグッズを作り、それを通販で大ヒットさせた話を聞いたんです。僕らの通販部門は当時売上げが低迷していて、そんなとき彼に連れていかれたのが真夏の『コミックマーケット』でした。僕はアニメに特別興味がなかったので、単純に“こんな世界があったのか!”って驚愕したのをよく覚えてます。その出会いをきっかけに、パルコの強みであるファッションとアニメを結びつけるビジネスをやってみようかと思った。最初に作ったのが、'09年の映画『サマーウォーズ』のストラップでした。これを吉祥寺パルコに期間限定オープンした『サマーウォーズ ショップ』などで売ってみたところ、大ヒットしたんです。そして次に作ったのが、TVアニメ『東のエデン』で主人公が着ていたM-65というミリタリージャケットでした。これは僕の知り合いで東コレにも出ているデザイナーに頼んだ、3万円くらいの本気な商品です。あくまで実験的な試みでしたが、これも吉祥寺に期間限定ショップを作り、同時に通販でも展開してみたところ、瞬く間に何千着も売れてしまったんです」
思いもよらぬ職場へ出向し、ひょんなきっかけから手を伸ばしたコンテンツビジネス。その後も通販サイトはアニメとファッションを結びつけた様々な商品でヒットを飛ばす。吉祥寺パルコで展開された期間限定ショップも好評を得たことから、'10年には渋谷パルコパート3に『monozoku』という名のリアルショップまでオープンした。
「今思えば初めがリアル店舗ではなく、わりと自由な通販部門だったからこそできたんでしょうね。当時アニメでビジネスをやろうとしていたのは社内でも僕くらい。基本ファッションの会社ですから、正直煙たがられた部分もあったと思うんです。ただ'09年の『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』の辺りからその風向きが変わりました。『:破』の少し前までは、コミケにも昔ながらの濃いオタクの雰囲気が残っていたけれど、それ以後は企業ブースなどがどんどん派手になりましたよね。アニメカルチャーをほとんど知らなかった僕から見ても、明らかに来場者の雰囲気が変わっていった感があって」
『monozoku』がオープンした'10年ころ。その時期はまさに、日本のアニメ・カルチャーが一般層の日常のあちこちへ“ポンッ”と浸透していく過渡期だった。そして同じころ手塚氏は、次なるターニング・ポイントを迎えている。アパレルを中心に、“日常に溶け込む”ハイセンスなモノ作りをしているヱヴァンゲリヲン新劇場版公式プロジェクト・RADIO EVAを手がけていた元ディレクター・武藤祥生氏との出会いだ。
「最初に見たのは、渋谷パルコで出店していた『ミノトール』という期間限定ショップで販売していた吉田カバンとのコラボアイテム。『monozoku』で常に企画を探す立場になり、ファッションとアニメの接点を探り続けていた僕にとって、RADIO EVAの商品は衝撃でした。なぜなら彼らの商品は、キャラクターの絵をそのままグッズにするのではなく、その要素をデザインに落とし込んで表現していたから。タグを見たらRADIO EVAと書かれていたので、すぐにネットで検索して公式サイトからメールを送りました。どんな人がこれを作っているのか、単純に作り手に会ってみたいと思ったんですよね」