最初から最後まで
現場に立っていたい
手塚氏が一連のイベントでエヴァと信頼関係を深めた数年の間に、パルコ各店でもアニメ関連の物販やイベントが頻繁に行われるようになった。そんなご縁の積み重ねからか、'14年には池袋P'パルコになんと『EVANGELION STORE』が移転オープン。さらに手塚氏は'15年夏の『新世紀エヴァンゲリオン』ブルーレイBOX発売時、再び渋谷パルコで展覧会『エヴァンゲリオンの始点』を開いている。会期は約1週間と小規模だったが、TV放送時に実際に使われたフィルムなど貴重品も展示された。
「パルコってわりと個性的な人が多い会社ですが、なかでもエンタメ事業部の開発チームはクセのある人が集まる部門。社内では通称“外人部隊”と呼ばれていて(笑)、仕事のスタイルも十人十色です。そのなかでも僕は、常に最初から最後まで現場に関わりたいタイプ。これは多分、学生時代のサークル運営がルーツなんです。インターネットが苦手だったのも、やっぱり現場主義だったからでしょうね。人と人が顔を合わせて何かを作っていく場が好きなんだと思います。そういう意味でも、エヴァとの仕事は面白いです。僕らの突飛な提案にも耳を傾けてくれるし、意図をちゃんと理解してくれますから。今も色んな作品の版元さんと関わりますが、なるべく代理店を挟まないのも僕のポリシー。会社ごとに関わり方は違うので苦労も多いですけど、その分しっかり対話ができてるんじゃないかと思います」
そんな手塚氏の現場主義と従来のビジネス経験から生まれたのが、'14年に渋谷パルコで誕生した情報発信型カフェ『THE GUEST』だ。3週間~1ヶ月単位でコンテンツが入れ替わる同店の第1弾は、サンリオとのコラボによる『キキ&ララカフェ』だった。TV番組でも取り上げられ、連日女性ファンが大行列を作るという結果を残している。
「アニメやキャラクターグッズの販売に偏るのではなく、もっとパルコらしい切り口を探していたんです。そこで目をつけたのがコラボカフェ。実は以前からあった企画ですが、作品の選定次第ではお客様の層も偏るし、長く続けるほど集客が落ち込みました。せっかく作るならただのコラボじゃなく、常に人でにぎわってSNSで話題になるような場にしたくて。そこで取り入れたのがギャラリーと同じ入れ替え制。お陰さまで好評をいただき、今は地方の店舗にも巡回しています。僕の来期の目標は、これを台湾やシンガポールなど、日本のポップカルチャーが好きなアジアの国々へ持っていくことなんです」
ところで今でこそ話題のTVアニメはチェックする手塚氏だが、それまで個人的にアニメを観る機会はほとんどなかったそうだ。
「未だ『ガンダム』すら観ていないし、実はエヴァも放送当時に友達にすすめられて観ただけ。ただ、エヴァはそんな僕ですら一晩で全話続けて観て、劇場まで足を運んだ作品だったんです。だいたい僕らのようなライトな層が観るアニメは多くが勧善懲悪モノで、主人公が強いのが定番ですよね。でもエヴァは主人公も強くないし、敵の目的すら分からないし、毎回その戦いが危うい(笑)。そんなストーリーに引き込まれたんだと思います」
同時に、作品全体のビジュアルや作り込まれたデザイン性が強く記憶に残っていたという。
「僕はもともとが理系なので、これとこれを結びつけてこう発信すると、うまくいく確率があがる…というような方程式で仕事をしている部分があるんです。エヴァのように好きなものにはとことん熱中する一方で、それが仕事となると、一歩引いた冷静な目線になれる。この辺りが、僕がエヴァとパルコのちょうどいい接点を見つけられた理由なのかもしれません。もちろん、近いうちにぜひ『エヴァカフェ』もやりたいと思ってます。そのオープニングパーティで今までお世話になった関係者を集めて、みんなをおもてなしするっていうのが、僕の目下の夢なんです」
株式会社パルコ
東京・渋谷や池袋をはじめ、全国に展開するファッションビル。
http://parco.jp/