Interview #03アニメーションの“謎”を解き明かす旅

アニメ・特撮研究家 氷川竜介

いちばん最初は、何かお力になれればというキモチでした

「アニメがなぜ好きなのか、答えを探す」。

これは、'00年に出版された氷川氏の著書『世紀末アニメ熱論』のまえがきにある一節だ。90年代後半に氷川氏が雑誌などへ寄稿した評論を集めて単行本化した本書は、70年代からエヴァまでのヒットアニメの変遷や、その“見方”を的確に伝えた名著である。作品の何が視聴者の心を動かしているのかを、類稀なる分析力と冷静な観察眼によって真摯に言語化し続けてきた氷川氏。その筆致には、アニメにさほど詳しくないファン層にもきっと響くであろう、アニメーションそのものへの熱く純粋な想いが溢れている。そして当の『新世紀エヴァンゲリオン』も、画面からそれと似たようなエネルギーを放つ作品だった。

「庵野さんとは、'80年くらいに飲み会で隣席になったのが初対面です。初めてエヴァについて話をしたのは、'04年に発売された劇場版のDVD(DTS版)制作のとき。同じ年に大友克洋監督の映画『スチームボーイ』にも関わっていて、同作がハリウッドで音響をつけるというので取材に渡米しました。僕ももともとレコードの制作をしていたので、音にはこだわりがあるからです。この経験を買われ、キングレコードさんから声がかかりました。エヴァ劇場版DVDをDTS版にリニューアルするにあたり、スタッフと庵野さんに5.1ch化する作業を中心とした“音”に対する想いを取材してほしいと依頼されたんです」

氷川氏がエヴァンゲリオン公式の仕事を手がけたのは、それが初めてのこと。DTS版DVDに付属したブックレット内の濃密なインタビュー記事だった。

「取材は渋谷の居酒屋で。17時の開店と同時に入って、23時の閉店までずっと話し込みました(笑)。当時最長の取材で、話題は庵野さんの原体験となった特撮作品などにもおよびました。新劇場版制作の話が浮上してきたのは、その後しばらくしてから。DVD普及で深夜アニメが増えたものの、オリジナル作品で新しいもの、ヒット作はエヴァ以降なかなか出てこなかった。アニメからしばらく離れていた庵野さんも、その状況にさらなる危機感を覚えたのではないでしょうか。ここでエヴァをリメイクして世に出すことが、アニメ文化の底支えになるなら…というような話をされていて。僕としても『何かお手伝いできることがあったら』というニュアンスで、気持ちを伝えていました」

このときの氷川氏は、本当に「ほんのお手伝いのキモチ」だったという。

「なぜかって? 90年代にエヴァを語っていた方々の濃度が100%だったとしたら、僕なんかほんの5~7%くらいの薄いファンだろうと思っていたからです。コアなファンの方たちはそれくらいすごいんです。僕なんて、内容に関しては未だにファンの考察を読んで“なるほど!”なんて感心してる程度ですから(笑)」

新劇場版の制作発表が行われたのは、『:序』の公開前年にあたる'06年。かつて所属していたガイナックスから独立し、カラーという制作会社を自ら立ち上げた庵野総監督は、自らの言葉で声明を出している。『:序』の映画パンフレットにも掲載された、「我々は再び、何を作ろうとしているのか?」という一言から始まるあのメッセージだ。

「あの声明は衝撃で、新劇場版の制作意図を明確に感じとりました。特に冒頭『アニメーション映像が持っているイメージの具現化、表現の多様さ、原始的な感情に触れる、本来の面白さ』といった一節があり、そこにものすごく惹かれたんです。アニメーションが人にもたらす感動の根源とは何か? そこにまた挑みたいという、強い意志。僕が90年代のエヴァ・ブームをめぐる言説に抜け落ちていると感じていた何かが、見られるかもしれない。アニメーションの何が面白いのか。どんなことができるのか。僕がずっと求め続けてきたその問いの答えにも、近づけるかもしれない。そう直感しました」

左/富野悠由季監督がガンダムに2年前に手がけた『無敵超人ザンボット3』に、リアル・ロボットアニメの源流を追い求めた初の著書『20年目のザンボット3』(太田出版)。安彦良和、金田伊功ら伝説的アニメーターの仕事も詳細に解説。右/キネマ旬報社より'00年に発行された『世紀末アニメ熱論』は、作品のみならず周辺グッズや特撮にまで言及しながら、70~90年代のヒットアニメを振り返っている。

旧劇場版の音声をDTSで収録した高音質DVD『FEATURE FILMS NEON GENESIS EVANGELION DTS COLLECTORS Edition』('04年発売)。庵野監督をはじめ音楽、効果音、ミキサーたちの、音に対する格別のこだわりが付属ブックレット内で明かされる。アニメ作品における映像や音響の技術論まで幅広い見識を持つ氷川氏ならではの仕事だ。