アニメと人間の関係――
その本質を探り続ける旅
一連のエヴァとの関わりを経て、氷川氏はいま『日本アニメ(ーター)見本市』の解説番組に出演している。'14年11月から始まったドワンゴとカラーの共同企画。現在のアニメ界を担う様々な監督・スタッフが、毎週1本ずつアニメーション短編作品を配信するという実験的な試みだ。配信後は『日本アニメ(ーター)見本市ー同トレスー』というニコニコ生放送の番組(毎週月曜日22時)で、制作スタッフを交えて氷川氏が作品解説を行っている。
「作品を作りっぱなしにしない。それが『日本アニメ(ーター)見本市』でやっていることで、解説番組のマインドはエヴァの『全記録全集』と同じという認識です。この企画は庵野さんが発案したもので、やはりアニメの将来に対する閉塞感から出発しています。エヴァンゲリオンを制作するスタジオカラーの機能やネームバリューを使っているわけですから、僕にはこれもまたエヴァンゲリオンにつながる一部かもしれないと思えます」
『ー同トレスー』における氷川氏の客観的な解説によって、視聴者は作品や映像作りへの理解をより深めることができる。そこに映し出されるのは、作り手と受け手との幸せなコミュニケーション。この一連の流れが、毎週同じように繰り返される。日々おびただしい情報に埋もれ、作品を“感動”ではなく“マテリアル”だけで語りがちになっている現代のアニメファン。アニメを観る楽しさ。そのプリミティブな感覚を忘れかけている我々に、氷川氏はこうして語りかけ続けているのだ。
「そもそもアニメーションって、ペラペラの紙の絵からできている。それが動くというだけの仕掛けで、なぜ面白くなるか感動するのか。その根源って、案外誰も不思議に思ってないですし、本質もまだまだ解明されきっていないと考えています。その証拠に僕らがアニメを観て映画館を出ると、だいたいキャラクターと物語のことしか覚えてないでしょ? でも本当にそれだけでいいなら、大金をかけ命を削ってまでアニメーションを作る理由なんてない。漫画や小説だけでも同じ興奮を覚えられることになるから。大事なのは映画館の中にいるとき、みんな本当は色んなアニメ体験をしているってこと。映画館の中にはあったはずの有機的なつながり、刹那の奇跡、心の解放と共鳴。そういったものを言語化し、絶やさないようにしたいですね」
エヴァはコミュニケーションの物語でもある。「なぜアニメーションが好きなのか?」というシンプルな問いから始まった氷川氏の探究は、すなわちアニメと人間の関係性、その本質を探る旅だとも言える。'14年からは、明治大学大学院の客員教授として教鞭をふるっている氷川氏。国際学日本学科で日本のアニメ通史を教えているが、2014年度は20名弱の受講者のうち3分の1くらいが留学生だったそうだ。
「いまもっとも興味深いのは、アニメの映像コミュニケーションがなぜか国際的にも通じているってことです。目が大きいセーラー服姿の女の子キャラに、僕らだけでなく諸外国の方まで『萌え!』と言っている。すでに言語や文化の垣根を越えて分かり合えているなら、それって超国際言語化なのではないか。実写の邦画で同じことができるかといったら、多分できない。アニメのこのおそるべき越境性は、人間という生き物がだいたい同じにできているということも意味しています。であれば、国境を越えてアニメで共感をもちあえるような可能性さえあり得る。これはもう国際平和につながるような、大変なことが起き始めていると思います。そんなアニメのもつ未知の可能性と、人をそこまで感動させる真相に、なんとか死ぬまでにたどり着きたいですね」
明治大学大学院 客員教授
アニメ・特撮研究家
氷川竜介
公式ブログ『氷川竜介ブログ』
http://hikawa.cocolog-nifty.com/
公式Twitter
https://twitter.com/ryu_hikawa