Interview #023000点のエヴァンゲリオン・グッズを作った男

株式会社ムービック

「僕で消してくれ!」とプリントしただけの消しゴムが飛ぶように売れてしまった

「『新世紀エヴァンゲリオン』の企画書を初めて見たときの感想は、正直『なんじゃこりゃ?』でした(笑)。なぜならエヴァは、それまでに当たったあらゆる作品と違っていたから。ただ監督の庵野さんをはじめ、主なスタッフは巨大ロボもので育った世代。あの世代のアニメファンって基本的に巨大ロボットが大スキで、彼らはかつてのOVA『トップをねらえ!』でコアファンを大喜びさせたこともありました。だから当初は、往年の巨大ロボものと特撮へのオマージュを、今度はTVアニメでやろうとしているのかな?って考えたりもしました。でもそれにしてはロボットの形も変わってるし、合体変形どころか電線に繋がってる(笑)。一体どういう意図で作ろうとしているのか、書面だけではわからなかったんです。でも第壱話を観てすぐに感じましたね。これはすごいアニメが始まったなと」

そして安田氏の周辺は、冒頭の通りちょっとしたパニック状態に陥っていく。
「グッズの要求は高いのに、材料が圧倒的に不足していたんです。使える絵素材も限られていましたしね。そこで考えたのが、シンボルやモチーフをデザイン的にあしらった商品でした。例えばネルフマークだけ、極太明朝体の文字だけとか、作品にまつわるネタを商品にしていった。それがかなり売れたんです。いまとなっては珍しくもないのですが、当時キャラクターのイラスト以外をデザインしたアニメグッズって意外となかった。しかも、冗談っぽいものまでよく売れたんです。極太明朝体で『僕で消してくれ!』って書いただけの消しゴムとか、TV版の丸い第12使徒“レリエル”の模様をプリントしたビーチボールとか(笑)。作品の中にあるネタだけでお客さんが喜んでくれるっていう現象は、僕らにとって本当に新鮮でした。そしてエヴァ側にも、その面白さや遊び心をわかってくれる土壌があったんです」

苦し紛れと面白半分。その両方から偶然生まれた“ネタ商品”の大ヒットは、その後のアニメイトにおける商品展開にも大きく影響している。
「とにかく考えつく限りのアイデアを提案したので、アイテムの横幅もここでかなり広がったと思います。例えばエヴァで初めて作ったものとして、フロッピーディスクとかマウス、携帯用スピーカーなどがありました。それと『エヴァンゲリオンカレー』のような食品も初めての試み。いわゆる子供向けではなく、アニメファンに向けたレトルトカレーです。これは最初、冗談でシンジくんにインド風の格好をさせたデザインを持っていったのですが、さすがにNGと言われました(笑)。グッズ化において大切なのは、デザインも含め、エヴァの世界観をちゃんとわかった上で表現できているかどうか。その違いはやっていくうちにつかめるようになった。もちろんこういった商品作りは、エヴァの作風だからこそ可能だったことですが」

『エヴァンゲリオンカレー』の企画時に版権元へ持ち込んだという、インド人風コスプレをしたシンジの絵。パッケージでの使用はさすがにNGだったが、店頭POPでの使用はOKが出たという。ある意味、グッズ化されていない貴重な(!?)イラストといえる。

こちらは、'97年に角川書店から発売された書籍『新世紀エヴァンゲリオン オールグッズカタログ E-MONO』(現在は絶版)。'97年までに発売されたすべてのエヴァ関連グッズが網羅されている怒濤の一冊で、ムービック製品もあますところなく掲載されている。商品バリエの多さだけでなく、使用されていた版権イラストのクオリティの高さなど、当時の様々なグッズ事情が読み取れて面白い。