Interview #023000点のエヴァンゲリオン・グッズを作った男

株式会社ムービック

新劇場版の大ヒットに、僕らは喜びと同時に焦りを感じた

「それまで僕たちアニメグッズのメーカーは、次にキャラクターのどんな絵を作って、どういう見せ方をするかってことばかり考えてたんです。エヴァはそこを変えてしまった。旧劇場版の終了後はゲーム版やスピンアウト作品などの展開もありましたが、さすがに盛り上がりは落ち着いていきました。でも、僕はその間もエヴァの商品化を止めようとは思わなかったんです」

それから数年後、'05年に登場したパチンコの大ヒットで新たな変化が訪れる。
「エヴァが一般の老若男女にまで拡散・浸透した大きなきっかけでしたよね。新劇場版のプロジェクトが関係者に発表されたのもそのころ。発表時はそれまでエヴァに関わっていた出版社やメーカーの人々などが招かれ、僕らもその末席にいました。そこで映画の制作状況や各社の商品企画の動きなど、情報を共有したんです。これは“連絡会”といって、現在も行われています。新劇場版以降のエヴァは、そういう組織立った宣伝とモノ作りをやり始めた。この経験は僕らにとっても初めてのことでした」

そこではっきり言われたのは、新劇場版は『新世紀エヴァンゲリオン』とは違うということ。グッズ化においても、TV版や旧劇場版のデザインコンセプトを引きずったものにはNGが出たという。
「僕らにとってエヴァは最も象徴的なアニメ作品であって、そのグッズを作り続けてきたことにどこか誇らしい気持ちもあったんです。一方でその後のコンビニタイアップなど、他社による関連商品の拡大に危機感を覚えたのも事実。それにエヴァ以降は、深夜帯のTVアニメが増えましたよね。各社その制作に追われて、いままで僕らがやってきた版権イラストの申請も、かなり厳格に管理されるようになったんです。昔はアニメーターさんに直接お願いしに行って、より良い絵を描いていただき、それを商品に載せればお客さんが認めてくれた。でも今はそれが難しい時代。僕らのようにアニメグッズで商売するメーカーさんも増えるなかで、使える絵素材は限られています。エヴァでいえば、RADIO EVAさんのような抽象的なコンセプトのアパレルまで登場しました。我々はメーカーとして他とどう差をつけるべきか。そこで手がかりになったのが“オンリーショップ”の手法だったんです」

オンリーショップとは、アニメイトが従来から行ってきた販促キャンペーンのようなものだ。アニメイト店内や商業施設の一角に、特定の作品に関わる商品のみを陳列し、同時に等身大POPやアニメの原画なども展示した期間限定ショップ。作品の世界観そのものを体感させる手法が、ファンの心をとらえていた。またそのころ、従来縁のなかったファッションブランドとアニメ作品のコラボレーション事例が増加し、アニメグッズにも新たな広がりが生まれつつあった。新劇場版以降のエヴァにおいても、新宿のマルイや渋谷パルコなどで、アパレル雑貨を集めたオンリーショップが実施されていたのだ。
「『:序』が空前のスケールで大ヒットし、TVアニメの枠を越えて日本映画の中のエヴァになっていったあの過程に、僕らはスゴい未来を感じていました。だからただ権利をもらって商品を作るのではなく、僕らにしかできない関わり方をしたかったんです。そこで考えたのが、エヴァだけで常設のオンリーショップを作ることでした」

『新世紀エヴァンゲリオン』時代、作品の象徴といえばこのネルフマークだった。現在も関連グッズやエヴァストア内のディスプレイなど、随所にこのデザインが用いられている。

こちらはエヴァストアのロゴタイプ。店のイメージに合わせて新たに考案された。