Interview #05フィルムに
残されていた執念

ソニーPCL株式会社

往年の名作アニメが次々とBlu-ray化される昨今。その精彩な映像は「キレイ」「美しい」といった印象だけで語られがちだが、実はその制作過程から見えてくるドラマというものもある。route2015第5回のゲストは、あらゆる映像技術のプロフェッショナル集団であるソニーPCL。近日発売となるTVアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』のBlu-ray BOX&DVD BOXにおいて制作を手がけた面々だ。かつてTV放送された後、素材たちは散り散りに眠っていた。その中に彼らが見たものとは…?満を持して発売される2つのBOXを120%堪能するなら、まずこのふたりの“仕事”を知っておいて損はない。

(左)
コンテンツサービス事業部
ビジュアルソリューション部
ポストプロダクション2課
藤森康平
1977年、神奈川県生まれ。専門学校で映像制作技術を学んだのち、'01年にソニーPCLへ入社。実写映画やアニメ作品のパッケージソフトにおける編集や、それらをTV放送向けに編集するといった様々な編集業務を手がける。

(右)
コンテンツサービス事業部
コンテンツサービス営業部
営業2課
雪田雅人
1978年、東京都生まれ。複数の映像制作会社勤務を経て'01年にソニーPCLへ入社。エヴァシリーズの映像ソフトを販売するキングレコードを始め、様々なパッケージメーカーからの受注・納品までを統括する営業担当。

5年の歳月を費やした
待望のBlu-ray化

ソニーPCLと聞いてすぐにピンとくる読者は、根っからのアニメファンか、映像制作やその技術に少なからず興味を持つ人物に違いない。様々なフォーマットの映像制作やメディア制作などを手がけている同社は、映像に関するあらゆる技術・ノウハウを持ったプロ集団。我々が普段何気なく手にしている映像ソフトは、一般にポストプロダクションと呼ばれる同社のような制作会社を経て、初めて製品化に至るのだ。

雪田「例えばエヴァンゲリオンのDVDを作るとなったら、弊社はまず発売元のキングレコードさんからご依頼を受けます。その後必要があれば自社スタジオで本編の編集・修正作業をしたり、TVのリモコンで操作できるようメニュー画面を加えたりして、製品用のマスターデータを完成させるんです。それを、静岡にあるソニーグループの工場でプレスして、最終的にはパッケージまでして納品する。これが、僕らが手がけている仕事の大まかな流れです」

今回インタビューに登場いただいたのは、8月26日に発売されるTVシリーズのBlu-ray&DVD BOXの制作に携わった営業担当・雪田雅人氏と、映像の編集を担当した藤森康平氏。彼らはいわば、我々がこれから視聴することになる映像の最後の総仕上げを担った存在だ。

雪田「弊社は映像コンテンツの企画・制作からメディア制作まで幅広く手がけていますが、ジャンルごとにチームが分かれています。例えばCMに特化している面々もいれば、主にアニメを得意とするチームもある。そのなかで僕と藤森は、主に映画やアニメ作品のソフトウェアを担当しています。最近弊社ではアニメ作品のソフトウェアを手がける機会が多いのですが、そのきっかけが実は、'03年に発売されたエヴァのDVD BOXだったんです」

それは、TVシリーズ全話と旧劇場版などを収録して発売された『NEON GENESIS EVANGELION DVD BOX』のこと。TVシリーズのDVDソフトはそれ以前にも発売されていたが、本商品は庵野秀明氏自らが再監督し、当時においてできる限りの高画質に加え、5.1ch音声まで追加したスペシャルな仕様だった。

雪田「弊社が現在多くのキングレコード作品に関わらせていただくようになったのも、あの仕事をきっかけに発売元のキングレコードさんとの繋がりができたから。エヴァに関しては、その後の新劇場版の映像ソフトもすべて弊社で制作していますが、今回発売されるBlu-rayとDVDのBOXは、そのなかでも最も長い制作期間になりました。技術的な検証作業の始まりが'10年くらいですから、足掛け約5年ですね。ひとつの製品にこれだけ長い期間携わったのは、僕らとしても初めての経験です」

すでに完成しているアニメ作品を、新たな高画質メディアに焼き直す。ただそれだけのことに、なぜ5年もの歳月が必要なのか? 映像技術を少しでもかじったことのある人間ならともかく、一般人からすれば、そこで一体何が行われているのか疑問に思うのは当然だろう。しかし、彼らが5年間エヴァンゲリオンと向き合い続けてきた理由は、実は我々がこれから目にする映像の中にすべて刻まれている。TVシリーズが待望のBlu-ray化を果たしたいま、その知られざるストーリーを紐解いてみたい。