Interview #05フィルムに
残されていた執念

ソニーPCL株式会社

スタッフを困らせた
リツコのマユゲ問題

色調整だけで1年かかっている本作だが、苦労したのはもちろんカラコレだけではない。その先に待っていたのは果てしない編集作業だった。

藤森「エヴァのTVシリーズ本編はもとが16ミリフィルム。当然、HDになると粒子感が出てきます。それを目立たなくする処理は全面的に加えました。あとはノイズやフィルムの汚れなどをレストアしたり、作画段階での塗り間違いを修正する作業などを、それぞれの専門スタッフが担当します。'03年のDVDの時点でかなりの部分を直していたので、当時の作業リストをもとに修正を加えて。それでも、ハイビジョン化したことで予想もしていなかったものが見えてきたりするんです。修正箇所はDVDのときより大幅に増えましたね」

雪田「分かりやすいところで言うと(赤木)リツコさんの眉毛とか。彼女の髪色って、高校生の姿を見ると分かりますが本来は茶色なんです。でも今は髪の毛だけが金髪で、眉毛は茶色。…なんですけど、よくよく観ると眉毛も金色になっているカットが結構ある。これは'03年の時にもかなりの数を直したのですが、当時の画質で見えなかった部分は修正しなかったり、単純にチェックが行き届かなかった箇所もあったんです。だから今度こそ『眉毛、全部塗ろう!』と(笑)。そのためだけに、僕は彼女の登場シーンを何度も観ました。藤森が作業している横で、僕はもうリツコさんばかりを凝視して(笑)」

藤森「それでもエヴァって、20年前のセルで描かれたTVアニメとしてはミスが少ない作品だと思いますよ。劇中に新聞が出てくるシーンがあるんですが、SDの画質だと文字がつぶれるんです。でもいざ高画質化してみたら、その文字が全部読めてしまう。これにはさすがに驚きました。それだけ、元のフィルムに膨大な情報が詰め込まれていたわけです」

雪田「今回の劇中に出てくる新聞や書類の文字は、目を凝らせば全部と言って良いほど読めます。その辺りもぜひ探してみて欲しいです。とにかく気付いた部分は全部直すという方針でやりましたから」

藤森「よりよいものを作るためなら、全カット直すことも辞さない。庵野監督のそういった方針のもと、一見すると分からない部分を数ミリ単位で何度も直した箇所も多々あります。また、修正の内容によっては使用する編集設備が変わるので、そうなるとこの編集スタジオとは違う部屋にいるスタッフの力も必要になるんです」

雪田「編集といっても、スタジオの中だけで何でもできるわけではないんですよ。今回の藤森はあくまで編集担当ですが、場合によっては他の社員たちが持つ技術や弊社の設備の中から、作品に必要なものをコーディネートするスキルや、クライアントの要望を的確に伝えるコミュニケーション力のようなものも必要になってくる。本作で藤森がやった仕事というのは、通常のパッケージ仕事と比べるともはや編集の領域を越えていたんじゃないかと思います」

'10年から少しずつ作業を進め、最後の編集を終えたのは今年4月だった。一度関わったら、中途半端な仕事では務まらない。これまでroute2015にご登場いただいた面々も口にしていたことだが、それは映像ソフトひとつ作るにしても、エヴァに関わる人間の宿命としてつきまとう。

雪田「実は藤森は今回がエヴァとの初仕事なんですが、僕は'03年のDVDのときから関わらせていただいています。だから今回も当然大変な作業になるだろうとは想像していました。それでも以前のDVDは、本当に根詰めて作業したのは半年くらいでしたからね。キングレコードの担当さんを含め、5年もかかるとは誰も予想してなかったはずです(笑)」

もちろん編集作業で加えたのは、単純な修正だけではない。第9話『瞬間、心、重ねて』では最後の戦闘シーンで画面右下に残時間が表示されるが、この数字は実は元のフィルムにも入っていない。「あの数字は当時“ビデオ感”を出したいという演出意図があったことから、ソフト化する際にその都度入れ直しているんです。今回もその意図にならって、オリジナルの象形にできるだけ近しいものを目指しつつ弊社スタッフが新たに数字を入れ直しました(藤森)」