エヴァンゲリオンTV放映20周年企画として、昨年から約1年にわたりお届けしてきたエヴァと誰かの物語。最終回となる今回のゲストは、このroute 2015を企画した張本人であり、エヴァンゲリオン公式プロジェクト RADIO EVAの企画発案者でもあるディレクター・武藤祥生氏を迎える。アニメ本体と適度な距離を保ちながら、既存のアニメグッズの枠に収まらないハイセンスなプロダクトを作ってきたRADIO EVAのクリエーション。それは他作品におけるグッズ制作の現場にも影響を与えているほか、独自の視点から企画した展覧会『EVANGELION 100.0』の開催などを通し、ユーザーにエヴァの新しい楽しみ方を提示し続けてきた。一連の発想のルーツはどこにあったのか? 単なるモノ作りではない、エヴァを通したコミュニケーションの場を創造し続けてきた彼のこれまでを探ると同時に、その先に描く新たなイメージをのぞいてみたい。
エヴァは人と人とのコミュニケーションを描いた物語だと思う
日常に溶け込むエヴァンゲリオン。そんなコンセプトを引っさげて'08年にスタートした『エヴァンゲリオン公式プロジェクト RADIO EVA』は、アニメ界の内外にいる様々なクリエーターが参加するモノ作りのプロジェクト。そこから生まれるプロダクトは、数多あるエヴァ関連グッズのなかでも、ひときわ異彩を放つ存在としてファンに認識されている。例えば、エヴァ初号機を象徴する紫と黄緑、黒のみで彩られたスニーカー。エヴァ2号機の裏コード『ザ・ビースト』の文字を、某英国ロックバンドのロゴ風にパロディしてデザインしたスタイリッシュなTシャツ。そこに分かりやすいキャラクターの絵や、作品のタイトルロゴなどは配置されていない。最近では雑貨からインテリアの分野までアイテム展開を拡大しており、熱心なファンが存在する。
「結局、僕がモノ作りをするうえでいつも大事にしているのは、自分の好きな人たちを喜ばせたいという気持ちです。RADIO EVAも、アイテムを買ってくれるお客さんに限らずその作り手も含めて、エヴァンゲリオンという作品を好きな人たちがいかに喜び、楽しんでもらえるかを考えて立案したプロジェクト。僕はRADIO EVAが作るあらゆるプロダクトや企画を通して、エヴァが好きな人たちみんなが楽しめる場所を作ろうと思ったんです」
そう語るのは、RADIO EVAを立ち上げた元ディレクターの武藤祥生氏。彼が同プロジェクトのディレクションを手がけていた'08年から'13年の間にやってきたことは、単なるモノ作りの域に留まらない。例えばRADIO EVAの公式Webサイトでは、ユーザーが日常のなかで見つけた“エヴァっぽい”風景のスナップ写真を掲載する『エヴァティックカメラ』という投稿コーナーがあったり、RADIO EVAに関わる様々なクリエーターらによるブログ記事など、ユニークな企画がざっくばらんに並んでいた。
「公式プロジェクトと銘打ってはいますが、やっていることはかなり自由。むしろアニメ本体とはほとんど接点を持たせていません。そこで表現したかったのは、エヴァが好きな人たちが思い思いに作品を楽しんでいるという“気分”でした。だから、やれることはモノ作りに限らない。例えば'12年には、RADIO EVAとして初の大型展覧会『EVANGELION 100.0』という企画を名古屋パルコギャラリーで開催し、大阪や東京など全国5カ所を巡回して7万人以上の入場者がありました。これは90年代から現在までに生まれたエヴァにまつわるあらゆるグッズ、イベント、異業種とのコラボレーション事例から、代表的なものを100種類集めて一堂に展示する試み。それも、ただマニアックなアニメグッズを集めて鑑賞させる展覧会とは違うんです。僕らはアイテムのひとつひとつが、エヴァの歴史においてどんな意味を持ち、アニメ業界の内外にどんな影響をもたらしてきたかを探って、僕らなりの解釈を加えるという見せ方をしました。僕はエヴァンゲリオンって、そもそも人と人のコミュニケーションを描いた物語だと思っているんですよ。ただ一方的にモノを作って提案するのではなく、一連のモノ作りや展覧会などを通して、エヴァを好きな人たちみんなのコミュニケーションを加速させること。それが、いまなお続いている僕の役割だと思っているんです」
モノではなく場所を作る。コミュニケーションを加速させる。そのユニークな視点は、一体何をヒントに生まれたのか。そもそも武藤氏は、どんなきっかけでエヴァと出会ったのか。この最終回では、おそらく多くのRADIO EVAファンが気になっていたであろう、武藤氏とエヴァのストーリーに迫る。