Interview #08コミュニケーションが
加速する場所

route 2015ディレクター
RADIO EVA元ディレクター
武藤祥生

この企画、イケるなと思いました

出会いは'07年、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』が公開して間もなくだった。'97年の劇場版をもって完結した後も、DVDや関連グッズの発売、パチンコ企画『CR新世紀エヴァンゲリオン』などの事例が続き、ファン層が拡大し続けていたエヴァンゲリオン。そんななか当時の版元ガイナックスが、'06年に『EVA AT WORK』というTV放映10周年記念のWeb企画を試みる。これはアニメ界とは直接関わりのない様々な職業人が、自分の“WORK”によってエヴァを表現し、それをガイナックスのWebサイトで公開するというアート感覚のプロジェクト。参加者は造形作家や日本画家、主婦から能楽師までとバラエティに富み、実際にギャラリーでの展示イベントも行った。同企画に手応えを得たエヴァのライセンス担当者は、この延長線上に、今までにないアイテムや企画を展開できるのではないかと考えたという。

「要は従来のアニメのキャラクターグッズを、もっとユーザーの生活に身近なもの、ライフスタイルの一部として落とし込めないか。当時ガイナックスの版権担当だった神村靖宏さん(現・グラウンドワークス代表)が、その実行者を探されていました。そこである人を介し、当時僕がいたプラグインクという会社に打診いただいたんです。『:序』のパンフレットをデザインしていたのは、クラブキング時代に知り合っていたTGBの市古君でしたし、僕がそれまでに出会っていた面白い人たちが、アニメの世界に興味を募らせつつあった。そのことは僕も当然感じていたんです。ただそのときの僕はアニメに全く接点がなかった。当時のファッション業界では、『ビームスT』が漫画を題材にしたTシャツを作ったり、色んなメゾンがジーンズ主軸のカジュアルなセカンドラインを展開していた流れがあったので、僕もやるならアパレルかなって漠然と思ったんですね。仮のプロジェクト名として『エヴァンゲリオン ジーンズ』という企画も考えたんですが……これが何だかしっくりこなくて(笑)」

そもそも武藤氏とエヴァンゲリオンの最初の出会いは、彼が地元の九州で何気なく観ていたTV版の再放送。ただそこからアニメに関心が向くことはなく、エヴァも劇場版を観にいくほどのめり込んだわけではなかった。

「エヴァンゲリオンというお題でモノ作りする場所を作っていく上で、僕自身がエヴァを好きじゃなかったら、何を作ろうがウソになる。自分が知らないものをあたかも知ってるように表現することは、やりたくなかったんです。その感覚は、遊びの延長上で仕事を作っていったクラブキング時代に叩き込まれたこと。だからまずは作品を何度も観ました。版権担当の神村さんに初めて会ったのは、'08年のバレンタインデー。“特別な日”に出会った神村さんとは、その後長いお付き合いになりましたね。それから早い段階で、作品の作り手や周辺の人たちにも会わせていただきました。スタジオカラーへ初めてお邪魔したとき、玄関にあったスタッフの自転車や、下駄箱のスニーカーを見て思ったんです。ああ、僕はきっとこの企画をやれるなって。僕はそれまでアニメ界の人を全く知らなかったけれど、そこには僕と同じようにスニーカーやファッションが好きな人、自転車のカスタムを楽しんでる人たちがいることが分かった。僕はお話をいただいた当初、ファンの方だけじゃなくて、作り手にも好きって思ってもらえるモノを作りたいと思っていたんです。ファンの方に対して一方的に何かを提案するんじゃなくて、作り手を含めたエヴァを好きな人たちが、みんなで楽しめる場所。それを作ることが、僕がいちばん得意なことだったから」

それからほどなくして企画名も決まった。エヴァンゲリオン公式プロジェクトRADIO EVA。モノ作りをする企画なのになぜラジオ……? 周辺からはそんな声もあがったそうだが、“場所を作る”という武藤氏の考えと、発信のイメージをもたらす“ラジオ”という言葉に、担当の神村氏もすぐ共感を示したそうだ。

「別にラジオ番組を作りたいんじゃなくて、そういう気分でモノを作るってこと。だからモノはアパレルに限りません。やがてそこに、エヴァを好きな人が持つ、色んなエネルギーが集まる場所ができるだろうと考えました。公式Webサイトの立ち上げは'08年春。会社(プラグインク)としてもプロジェクトに本腰を入れることになって、商品の販売を始めたのは同じ年の夏でした」