Interview #08コミュニケーションが
加速する場所

route 2015ディレクター
RADIO EVA元ディレクター
武藤祥生

エヴァだからできた色のサンプリング

初号機のボディカラーである紫と黄緑、黒。それを巧みに配色したシンプルなボーダーTシャツやバッグ。キャラクターをアニメの絵ではなく色で表現したRADIO EVA初期のデザインは、従来のアニメグッズとは一線を画すとても抽象的なものだった。

「配色だけでキャラクターを表す手法は、よく『その手があったか!』的な言われ方をされましたし、RADIO EVA以降に他作品のグッズでも応用されていると思います。でも僕は、この表現ってむしろエヴァだからできたと思っていて。なぜなら一般的にアニメグッズでキャラクターを表現する場合、版元が指定した色しか使えないケースが多いんです。でもエヴァの版権グッズにはそもそも色指定がなくて、最初から『あなたなりのエヴァを表現して下さい』というスタンスで依頼されました。商品も全部が同じ紫や黄緑を使うわけではありません。同じ紫でも生地や素材の質感によって色調を変えるし、僕も『これは夜のシーンの黄緑』、『晴れてる日の赤』とか、物語から色んなことを想像してデザイン要素を編集しています」

ちなみにRADIO EVAの発足からしばらくしたころ、版権担当の神村氏とこんなやりとりがあったそうだ。

「ある日、ガンダムを愛してやまない神村さんががこんなことを仰ったんです。 『ガンダムやザクは工業製品だけれど、エヴァはそもそもロボットでも工業製品でもない』。『プラモデルにすると、エヴァは絶対ガンダムにはかなわない』って。この一言がすごくヒントになったんですよね(笑)。ロボットではない有機的な存在として捉えられたからこそ、デザインも自由に発想できた。ガンダムが同じ方法論でグッズをデザインしても、多分エヴァのような“気分”を醸成することはできないんじゃないかな。僕はそう思います」

そもそも色という着眼点を得たのは、RADIO EVAという名称が決まる以前。プロジェクト参加にあたって、過去作品のDVDを観ていたときだ。

「最初のころは、DVDも毎日流しっぱなし。エヴァって繰り返し観ても不思議と飽きなくて、映像をジーッと見続けちゃう魅力がある。その気持ちよさこそ、僕にとってのエヴァの魅力でした。同時に、庵野秀明監督が作る映像ってすごくDJっぽいなと思ったんです。DJっていわば、目の前にいる人たちと音楽でコミュニケーションを取り、楽しめる場所を作る係のこと。その場所を作るために、膨大な音源から楽曲をセレクトして会場に向かいます。DJも最初はアニメファンと同じように、自分の好きな楽曲をきっかけにして、同じ時代や同じジャンルの音楽を掘り下げていくんですよ。彼らはそうして蓄積した楽曲を、イベント主旨や会場の雰囲気に合わせてうまく編集し、お客さんを喜ばせるために使うんです。これは僕の勝手な想像ですが、庵野監督が作る映像はそういう意味でDJ的だと感じました。なぜなら、彼は知識やモノを集めることを楽しむだけでなく、それを誰かとのコミュニケーションのために使っているような気がしたから。route 2015に登場したアニメ・特撮研究家の氷川さんは、エヴァの制作現場には綿密な設計図なんてなかったと仰ってましたよね。その時々のスタッフ間のコミュニケーションや現場の空気、お客さんの反応によっていくらでもスクラップ&ビルドしていくという話。僕から見ると、そんなところもDJのサービス精神に似ています。つまりエヴァが好きな人の心に引っかかるモノを作るなら、ビジネス的なことを考える以前に、僕自身が『エヴァっぽい』『好き』『ここを伝えたい!』って思う部分をどう表現するかが大事だと思った。僕はそういう思いから、色をサンプリングしたんです。日常で着ていても何ら違和感のない服だけど、見る人によっては『エヴァっぽい』。それがモノを買った先にある面白い体験、自分だけでなく誰かを楽しませるコミュニケーションのフックにもなると思いました」

世に溢れていた多くのアニメグッズのことはあまり意識せず、いわゆるマーケティング的な作業もしていない。その代わり、もうひとつ熱心に取り組んだことがあった。

「作品の作り手や、周辺にいる人たちと積極的に会わせてもらって話をしました。そこで気付いたのが、みんな本当にエヴァが好きで集っているということ。ファッションや音楽もそうだけど、自分と同じものを好きな人が他にどんなモノを好きかってすごく気になるでしょう? 僕はそもそもアニメに疎いので、彼らが作ってきた作品、影響を受けた作品を片っ端から聞いて掘り下げたんです。僕はアニメ業界の外からきた人間だけど、僕もみんなと同じようにエヴァが好きなんだってことを知って欲しかった。だったら自分から彼らを知ろうと思ったんです。そうすれば、彼らが本当に喜んでくれるものを作れるんじゃないかと思った。同じエヴァ好きである彼らが認めてくれるものなら、ファンにもきっと届くはずですから。そうこうしているうちに、スタジオカラーのなかにも、RADIO EVAの商品を気に入って身に着けてくれる人たちが現れたんです。それは僕にとって最大のモチベーションになりました。もちろん、商品はすべて僕個人の考えだけで作っていたわけではありません。『カッコいいかどうか』の判断や具体的なユーザーイメージは、常にプラグインク社内、外部クリエーターとディスカッションした上でエヴァ側へ提案し、みんなでプロダクトの最終形を探り出していきました」

RADIO EVA初期の人気アイテムとして最近復刻もされている『闇夜 Tシャツ』と、オリジナルのカットソー生地を用いた初号機カラーのボーダーT。特に『闇夜』の黄緑は暗闇で光る蛍光色のような発色を目指した。

色だけでなく『エヴァっぽさ』を象徴する何かをサンプリングし、ファッションに落とし込むのも得意技。アスカの母親が持っていたパペット人形、暴走したエヴァの口元など、視聴者の記憶に残る要素を抽出している。