Interview #08コミュニケーションが
加速する場所

route 2015ディレクター
RADIO EVA元ディレクター
武藤祥生

人の“ライフ”のなかに踏み込んでみたい

『EVANGELION100.0』の仕事は、RADIO EVAディレクターとしてのひとつの集大成だった。その後武藤氏はディレクターの立場を退き、会社も辞めてフリーランスの立場で活動していく選択をする。

「ずっとエヴァに関わり続けたから、少し気分転換をしたかった。それから3年くらいは、RADIO EVAで学んだことを他のキャラクターグッズ制作の場で生かしたりしていました。でもその後の'14年末に、エヴァの20周年企画として『EVANGELION STORE』のサイト内で特設ページを作るというお話をいただいて。それがこの『route 2015』だったんです。作品の制作側ではなく、その周りでモノ作りしたり、エヴァに深く関わるお仕事をされている方々のインタビュー企画。コンセプトはわりとすぐに決まりました。実際話を聞いてみると、みなさんそれぞれの形でエヴァを愛していて、またそこに関わったことから、新たな仕事や興味の対象を見つけてらっしゃる。そんな風に長い間ディープに関われる題材に出会えることって、僕みたいな仕事でもなかなかないです。TV版エヴァのブルーレイ化を手がけたソニーPCLの方々も仰ってましたが、だからこそ現場で求められる仕事はハイレベルなものになるし、簡単には終わりません。でも結局みんな作品を愛してるから、めげないんですよ(笑)。アニメイトで何千点もグッズを作った安田さんや、海洋堂の宮脇センムはその最たる存在で、お2人は20年間誰よりも濃密にエヴァと関わっているはず。でもまだまだその先にある新しいことを追求してらっしゃる。僕も学ばされる部分が多々あります」

エヴァというムーブメントを盛り上げてきた様々な重要人物の「これまで」と「これから」を探ってきたroute 2015。武藤氏も含めそれぞれがエヴァンゲリオンとの仕事から影響を受け、自らの仕事、あるいは人生そのものに新たな目標やビジョンを見出してきた。それは作品の視聴者からすれば見えにくい部分だが、同時に彼らのような存在が、エヴァをとりまく世界の深化に少なからぬ役割を果たしてきたことも事実だ。連載はこれで最終回となるが、当然彼らの物語はその先の20年へと続いていく。route 2015の仕掛人である武藤氏にも、いま新たなビジョンが見えていた。

「さっき話したDJの話にも通じるんですが、数あるエヴァグッズのなかから、僕のような第3者の目線でアイテムを選んで組み合わせたセレクトショップのような企画に興味を持っています。元々あるものを再編集して新たな価値を見出すという意味では、展覧会『EVANGELION 100.0』の進化形ともいえるかな。それと僕が未だにスゴいなって思う、リスペクトしてやまない企画が、'04年から続いているパチンコの事例です。僕はRADIO EVAの立ち上げ当初、エヴァが好きな人のライフスタイルに、いかにエヴァを溶け込ませるかってことを考えていました。でもパチンコがスゴかったのは、エヴァに関心があるパチンコ好きを喜ばせるだけではなく、ただのパチンコ好きだった人のなかから、新たなエヴァのファンが大量に生まれたところ。もともとファンが沢山いるところでふんぞり返ってるんじゃない。パチンコ好きな人の輪のなかに、エヴァがポンッと入っていったんですよね(笑)。だからみんな驚いたし、新たなファンが増殖する予想外の展開にもなった。僕もこれからはそれをやってみたいと思っていて。このroute 2015を通して改めて思いましたが、もはやエヴァって、それを好きな人のライフそのもの。だからいまは、エヴァというライフが、それを知らない誰かのライフに『こんにちは!』って踏み込んでいくようなことにすごく興味がある。それは釣りやキャンプのようなアウトドアの世界かもしれないし、音楽やファッション、あるいは町のコーヒーショップや、旅だったりするかもしれません。とにかく今後僕がエヴァでプロダクト開発をするときは、おそらくそういった誰かの『ライフ』に直結したものを作ると思います」

今年春から、再びRADIO EVAでのプロダクト作りに一部参加している武藤氏。一方でこれまでの経験から、エヴァを題材にモノ作りをしたいと熱望する作家やクリエーターにも数多く出会ってきた。今後は自らモノを作るだけでなく、様々な作り手が自分たちのクリエーションによってエヴァを自由に表現できるような、そんな“場所”も作ってみたいという。

「いま世の中にいる感度の高い人たちは、『次に何が流行るのか?』なんてことにもうあまり興味がない。自分にとって何が大切で本当に必要なのかを自ら探してるんですよね。ファッションの世界も従来のシーズン制がなくなりつつあるし、音楽だって月々定額で世界中の楽曲が何でも聴けちゃう時代。誰かからの提案を待つんじゃなくて、面白いことを自ら探して選択していく方向に世の中がシフトしているように感じます。それを個々人が発信していくのが、これからの時代。逆に考えれば、波はそこかしこにいつもあるんですよ。それを見極めてどうつかまえるかに、センスが問われる気がします。もともと自由度が高くて懐も深いエヴァンゲリオンですから、きっとまだまだ、見たことのない世界を一緒に作っていけるんじゃないかな。それにもしかすると、一連のインタビューを読んで下さった人たちのなかには、僕らのような形で将来アニメに関わる仕事をしたいと思ってる若い人もいるかもしれません。そうやって繋がっていく物語を、僕はこれからも旅するように楽しみたいと思っています」

'15年夏に伊勢丹新宿で開催したコラボイベント『エヴァンゲリオン:新宿伊勢丹版』は、武藤氏がディレクションを担当。自身としては初の百貨店との仕事だった。エヴァ20周年を飾るファッション企画展として、トレンドの“スポーツ”をテーマに『X-girl SPORTS』や『ユージュ』『ダブルスタンドードクロージング コルコバード』などが競演。RADIO EVAの商品も取り上げられた。

ヱヴァンゲリヲン新劇場版公式プロジェクト RADIO EVA

ヱヴァンゲリヲン新劇場版公式プロジェクト RADIO EVA
http://radio-eva.jp/


<撮影協力>

THE LOCAL with Good Coffee & O:deer
アプリを使った事前注文で、店舗に着いたらすぐ淹れたてのコーヒーをサーブ。国内外のロースターからバリスタが毎月セレクトする、高品質なコーヒーを楽しめるお店。
AOYAMA Zero
最高のサウンドシステムと良質なレギュラーイベントには定評があり、国内外トップクラスのDJが多数出演。箱でしか響かない、ここでしか聴けない音が体験できる。武藤氏もDJとして出演することが多い、東京渋谷区青山のクラブ。