Interview #08コミュニケーションが
加速する場所

route 2015ディレクター
RADIO EVA元ディレクター
武藤祥生

想像以上の何かは、いつも遊びや余白のなかから生まれる

RADIO EVAのモノ作りには、外部から招いたさまざまなクリエイターやアーティストが関わっている。初期のアイテムでいうなら、吉田カバンの『PORTER』とコラボレーションしたバッグや、アーミーナイフで知られるビクトリノックスのマルチツールなどが好例だ。

「アパレル関係者からグラフィックデザイナーまで、その時々の僕のアンテナに引っかかる人たちに『一緒にやろう』と声をかけました。そこにはエヴァが大好きな人もいれば、全く知らないという人もいた。だけど全く知らない人でも、その身近にいる友達がファンだったり、自然と新たな出会いが生まれちゃうのがエヴァのすごいところ。モノ作りの過程で、アニメ業界の外側にいるエヴァ好きな人々がどんどんあぶり出されていったんです」

'09年に『:破』が公開されてからは、観客動員数の伸びに比例して、RADIO EVAの活動範囲も多様に広がった。

「アニメ雑誌『NewType』でファッション企画の連載ページを持ったり、TVの通販番組に商品が取り上げられて日テレに通ったり。『:破』公開の翌年には、パルコの手塚君と初めての展覧会『エヴァクリ展』も開催できました。また、'11年に原宿で『EVANGELION STORE』がオープンしたことも、僕のなかでは大きな出来事。それまでWeb上の展開のみだった商品に、お店のスタッフが言葉を添えて下さったことで、アイテムが放つメッセージも増幅したと思います。お店ではイベント企画も多く、ショップ自体をメディアとして捉えているようなところも興味深かったですね。僕自身も、お店によく足を運んでスタッフとコミュニケーションしたり、お客様が楽しみながらRADIO EVA商品を買って下さる様子を見ることができました。このころまでには、僕が当初考えていたRADIO EVAという“場所”がすっかりできあがっていたと思います。モノ作りに誘ったクリエイター同士が繋がって新たに仕事するとか、その先の動きも生まれてましたね」

一連の展開は全く想定しなかったわけではないが、武藤氏自らが積極的に仕掛けていたわけでもないという。

「RADIO EVAという場を作ること以外、あえて目的も期限も何も決めないというふわっとしたスタンスが、同じ気分を共有できる人や環境を引き寄せたんだと思います。モノ作りって不思議なもので、余白や遊びの気分がないと想像以上のモノは生まれないんですよ。だから僕はマーケティングをあまりしないし、SNSで話題をバズらせるみたいな戦略も重視しない。マーケティングを優先する人はよく作品を“コンテンツ”って呼ぶけど、作品に対する愛を感じないというか、僕はあの言葉が苦手でね(笑)。エヴァという作品自体もそうだけど、本当に面白いモノやコトって、もっと予測がつかないところに発生するものなんです。こだわりすぎてつまらなくなるのが嫌だから何も考えないようにしてるけど、一方でそんな風に冷静に考えてる自分がそのうち恥ずかしくなってきて、またもう一度こだわってみる。そのリピート。RADIO EVAというチームがあるとするなら、僕の係はきっとその部分。それはライブ感とか生の感情、感覚とも言い換えられると思います」

しかしそんな武藤氏が、RADIO EVA発足当初から「これだけはやる」と周囲に話していた企画がひとつだけあった。それが'12年、『:Q』の公開に合わせて名古屋パルコギャラリーで開催した初の大型展覧会『EVANGELION100.0』だ。

「エヴァは関連グッズの多さや異業種コラボの事例においても群を抜く作品。集まっているエネルギーの大きさは比類ないもので、これらをRADIO EVAなりの視点で編集して見せれば、絶対に面白くできる自信がありました。当初はエヴァにまつわるプロダクトを100種類集めて一冊の本にしたかったのですが、パルコの手塚君とのご縁で展覧会の機会をいただいて。結果、その図録としてパルコ出版から同名の書籍も作れました。発行されたのが'13年の春で、ちょうど僕の地元でもある九州・福岡で巡回展をしたときです。制作スタッフみんなで博多に行って、僕の地元の知人の店で出版パーティを開いたんですが、実はその夜にまた重要な出来事が起こりまして……」

福岡の博多といえば、route 2015の初回に登場したフォントワークスの本拠地だ。

「せっかくの機会だからと、同行していた神村さんがフォントワークスの三原さんたちを店に呼んで下さったんですね。でも僕たち、彼に電話をかけたとき重大なミスに気付いちゃったんですよ。僕らが『100.0』でセレクトした100種類のプロダクトのなかに、フォントワークスさんの『マティス-EB』を入れてなかったってことを(笑)。僕はそのときが三原さんとの初対面だったのですが、出会っていきなり謝り倒しました(笑)。もちろん三原さんは笑って下さいましたが、そのときいつか、フォントワークスさんを加えた『100.1』のような企画を用意しますと、そう約束して東京へ帰ったんです。実はこの出来事が、約2年後に立ち上がった本企画『route 2015』のヒントになりました」

RADIO EVA初期アイテムのなかでも新鮮な存在だったビクトリノックスのマルチツール。表面にプリントしたグラフィックが人気を博した。Tシャツは通販サイトZOZOTOWNのクリエイティブ・ディレクターであるJUN WATANABE氏とコラボレーションしたもの。ドットで綾波レイを表現する新しいアプローチで、展覧会『EVANGELION 100.0』の1品目として展示された。

神奈川県の箱根町がエヴァとタイアップして交付した、限定390枚のご当地ナンバープレート。武藤氏がディレクションを手がけた仕事のなかで、最もユニークな企画のひとつだ。デザインは武藤氏の友人でもあるデザイナー・瀧澤聡一郎氏が手がけている。