Interview #06貧乏な模型屋に
降り注いだ福音

株式会社海洋堂
宮脇修一(センム)

使い勝手も
破壊力も抜群な、
貧乏人の核兵器

かくして生まれたのが、『綾波レイ 病室にて』という名のガレージキットだ。TVアニメの放送中である'96年1月に早々と発売され、造形を手がけたのは同社の寺岡邦明氏。エヴァのガレージキットは'95年時点で実は他メーカーから1体だけ綾波レイが発売されているが、その次のお披露目となった海洋堂の同作は、当時の版元からしても意表をつくものだった。

「キャラクター本体だけじゃなく、眼帯をした綾波がベッドに横たわっているという商品だったんです。ベッドや点滴なんかの小物も加えて、ヴィネット(ジオラマ)まではいかないけれども、そのキャラを象徴するシーンまで演出するというアプローチ。当然僕が指示したわけでなく、現場から自然に生まれてきた第1弾がそれでした。あの綾波が、後の海洋堂におけるエヴァ造形物の方向性を決めたんじゃないかと思いますね」

同じく'96年1月には、同社の佐藤拓氏が原型を手がけた初号機のレジンキットが発売。これも、TVシリーズ第壱話に登場した使徒を踏みつける初号機を、アクションフィギュアさながらの躍動感で表現した個性的な作品だった。今や日本を代表する美少女フィギュア・モデラーとなったBOME氏も、この頃からメキメキと腕を上げ、綾波レイや惣流・アスカ・ラングレーのフィギュアでヒットを連発していく。

「あと特徴的なものといえば、後にチョコエッグで動物フィギュアを手がけた松村しのぶの造形でしょうね。松村君はもともと動物や昆虫が大好きな人。動物模型のモデラーとしてエヴァ以前から知る人ぞ知る存在だったんですが、動物よりもエヴァの仕事で名前を知ったファンの方が多いと思います」

ガレージキットというのは、基本的にアニメの2Dキャラクターの表情をいかに損なわず3D化できるかという点でクオリティが問われるもの。しかし松村氏が'96年に作った初号機は、造形はもとよりその塗りの質感に至るまで独自のアレンジを加えた、非常に作家性の強い作品だった。

「発売はTV放送が終了して間もなく。あんなに早いタイミングであそこまで大胆にアレンジして、それがファンに受け入れられるっていうケースは他作品でもあまりないです。作家性を強く出したって、普通は売れへんのですけどね。それがいきなりバカ売れした。僕らなりの演出というのが、お客さんにすごく響いたんです。とにかく、そういった最初の動きがウチは早かったんですよ。大手の玩具メーカーがプラモデルを作ろうかどうしようかとグズグズ悩んでる間に、僕らはひたすら思うままにレジンキットを作って、それがバカスカ売れた。プラモデルは大量生産が前提で、開発に時間も金もかかる商品やけど、レジンなら原型ひとつ。我々みたいな貧乏人にだってヒットが作れるってことが分かったんです。海洋堂にはガンダムもセーラームーンもなかったけれど、エヴァンゲリオンがあった。僕らにとってのエヴァは、言ってみれば貧乏人の核兵器みたいなもんですわ。使いやすくて、破壊力も抜群!(笑)」

寺岡邦明氏が造形し、'96年1月に発売されたエヴァにおける同社初のヴィネット風ガレージキット『綾波レイ 病室にて』。

2015年7月開催のワンフェスで展示されたジオラマ作品の一部。これは'12年に同社が手がけ好評を博したイベント『海洋堂エヴァンゲリオンフィギュアワールド』で初展示されたものだった。'96年に作られたヴィネット風モデルから、いかにその技術・モノ作りのコンセプトが進化してきたかが分かる。

こちらは松村しのぶ氏が'97年に作ったガレージキットを、後に『新劇場版』のカラーリングで完成品として再販売したアイテム。太腿筋の質感やその頭部の表情を見れば分かるように、戦闘の壮絶な空気感までも再現したかのようなアレンジは、当時のファンに衝撃を与えた。