Interview #06貧乏な模型屋に
降り注いだ福音

株式会社海洋堂
宮脇修一(センム)

ガレキ黄金時代の
ヤンチャぶり

貧乏人の核兵器。豪快なキャラクターで知られるセンムらしい表現だが、氏の言う“使いやすさ”というのも、その後のフィギュア文化の隆盛において実は大切なポイントだった。

「うちは昔から作家主義でやってますから、模型のモの字も知らないような今どきの若いライセンサー(版権元)とは会話にならないことも多いです(笑)。それは、版元の監修を受けたくないという意味ではないんですよ。そこを踏まえた上で、どうすれば他のどこにもない面白い商品を提案できるかってことに、僕らは全てをかけてるから。そうでなきゃ、造形なんかやってる意味がないでしょう。エヴァはウチに限らず、当初から各メーカーの創作性を理解してくれる作品でもあった。と言っても、ガイナックスの面々とは会う度にお叱りを受けたり、バカ話していた思い出しかないですけどね」

では、その“バカ話”の一部をご紹介しよう。エヴァ以降に一般層をも巻き込んで注目を集めたフィギュアのひとつに、ガチャガチャで販売されるカプセルトイがあった。

「いつだったかなぁ。カプセルトイで、ミサトさんの入浴シーンを再現した“お風呂ヴィネット”を作ったんです。人間のお尻って、バスタブに座るとこう、ペタッと開くでしょう。それを手がけた大嶋っていう造形師が、あろうことかケツの穴まで作りやがってね(笑)。そういうモノを持っていって、まんまと怒られるってことはよくありました。ほかにもアスカの黄色いワンピースから見えるパンチラをめぐって、結構な戦いがあったり(笑)。あと思い出深い商品のひとつとして、木下(隆志)君が作ったソフビの初号機がありますね。全高40cmもあるメガソフビのキットなんですが、あんな複雑なロボットをわざわざソフビで作るっていうのが、そもそもバカらしいでしょう。案の定できあがったモノも胴体がボテッとしてて、どうにもパンチがない(笑)。こんなしょうもないもん、いっそパッケージで遊んでやろうということになったんです」

それが、本ページの下に紹介している『メガソフビ エヴァンゲリオン初号機ソフビキット』である。

「パッケージになぜかセリフが入ってるという、当時のガレージキットとしては斜め上をゆくワケ分からんデザイン(笑)。これは佐藤店長(ガイナックスで当時エヴァの版権商品担当だった佐藤裕紀氏)に絶対イヤがられるだろうなと思ったから、色校段階まで見せなかったんです。『絶対アカン、最後まで見せるな!』って。もちろんイヤがられましたね(笑)。『なんでパッケージにこんなに文字が必要なんですか!?』と。でも結果的にそのインパクトで押し通して、無事に出させてもらいました。ほかにも、佐藤さんがイチャモンを付けてきそうなものは、なるべくギリギリまで見せないんです。僕らとしては完成まで持ってくれば、お客さんが納得する良いものを作ってる自信はある。でもその途中に、口や企画書で説明するのは苦手なんですよ。だから本来ならちゃんと制作途中で確認を取りながら進めなければいけないところを、ウチは全部飛ばしてギリギリの最後で見せてた。多分、佐藤さんもそのことは分かって下さっていたんでしょうね。ずいぶん腹も立てたでしょうけど(笑)、良いものは良いものとして認めてくれてもいました。そこは度量が大きくて、ありがたかったですね」

木下隆志氏が造形を手がけた『メガソフビ エヴァンゲリオン初号機ソフビキット』。本作の見逃せないポイントといえば、その個性的なパッケージデザインだろう。