Interview #06貧乏な模型屋に
降り注いだ福音

株式会社海洋堂
宮脇修一(センム)

生き様から生まれる
海洋堂の造形

エヴァ20周年ブースも話題となり、昨年に引き続き6万人弱の入場者を獲得した2015年夏のワンフェス。その主催者として前日から会場を走り回っていたセンムは、イベント開始からある異変に気付いたという。

「開場間もなく、海洋堂の展示ブースが満員になったんです。メーカーの展示ブースって限定品が売ってるわけじゃないので、昼過ぎくらいから買い物を終えた人が集まってくるのが普通でした。でもそれが開始30分で人で溢れる。要は模型を買いたい・作りたい人ではなく、会場を回遊して写真を撮る『オタク詣で』が増えたってことですわ。これがエヴァで広がったガレージキット好きと、それ以降の新しいアニメファンの違いなんですよ。コアな模型イベントが、アニメフェアと同じような状況になっている。このまま動員数が増えて僕らがうれしいかと言ったら、実は全くうれしくなんかなくて。そんなユルいオタクには、この辺で冷や水をかけてやりたいって思いすらあります」

もちろん動員数が増えることは悪いことではない。ただ、彼らは「カネ儲けのために模型を作ってきたわけではない」のだ。それはインタビュー中センムが何度も繰り返した発言だが、そこに嘘がないことは、海洋堂の造形師たちがいかにして80年代からここまで辿り着いたかを知ると見えてくる。

「大体造形をやる連中なんてのは、世の中の決まったルールに則れん、社会性が低い人間ばっかりですから。本人は破るつもりがなくても期日には間に合わせられないし、イベントの申込書ひとつちゃんと書けない。他の業界がどうか知りませんけど、少なくとも模型の造形力や作家力は社会性と反比例します。我々は誰も見たことのない面白いものを世の中に突きつけたいからこそ、そういう狂った人たちを食わせながらここまで何とかやってきた。ビジネスしようとしたら、こんなことやってられませんよ。それはきっと、エヴァや庵野さんだって同じこととちゃいますか?」

模型を作り続けなければ、マトモに生きていけない。30年以上前にいち模型ファンとして海洋堂を訪れ、そのまま居着くようにして腕を磨いていった同社の造形師たちは、多くがそういう人間たちだ。金儲けや女性との交際、人並みの幸せと呼ばれるモノのすべてを投げ打ってでも、彼らは模型を作りたいと欲望し、実際そうしてきた。正月や盆休みの時期ですら、海洋堂の造形室には削りカスやプラカラーにまみれながら黙々と制作に打ち込む者が絶えないという。

「うちが業界でも屈指の作家集団、作家主義でやれているのは、そういう生き様を見てもらっているから。それでも、最近は美少女フィギュアひとつ作るのにも制約が増えましたけどね。我々は自分たちの主張を強引にゴリ押ししたいんじゃなくて、より面白いもんを作るためにちゃんと会話をしたいだけ。監修だって受けるし、間違ったヘンなものを作る気もさらさらない。それなのに、フィギュアの善し悪しも分からない人間が、髪の毛の流れひとつにガチャガチャ文句をつけてきたり、手の形はパーじゃなきゃいけないとか。こっちはグーの方がカッコええからグーにしてるのにね。そういう、何でもかんでも制約だらけのフィギュアが世に溢れてしまった。『お前らのためにフィギュア作るんとちゃうわボケ!』という版権元が増えましたね。自分でキットも組まんド素人のお姉ちゃんが、僕らに立体を語ったって、会話にならないに決まってるじゃないですか。そういう意味で、エヴァの関係者たちは常に僕らの話を聞いてくれたし、色んな提案もさせてもらえた。それは顔と顔の繋がりで仕事ができてるからです。そうでなきゃ、こんな未来は来ていなかったはずやから」

Column

  • 01
    海洋堂の人気造形師・BOME氏の仕事場

    先のワンダーフェスティバルにて、6体限定販売・1体80万円(!)の式波・アスカ・ラングレーを発表したBOME氏。大の美少女フィギュア好きとして20年来レイやアスカを作り続けてきたその作品を見ていると、彼がどれだけ純粋な目でアニメキャラクターを観察し、独自の造形を追求してきたかが伝わってくる。そんな彼の仕事場には、現在製作途中のアスカのパーツがゴロゴロしていた。彼の作業机の上やその周囲、足元には、原型作りの道具や資料が常に山盛り。模型に人生をかける海洋堂の造形師にとっては、作品作りに集中するためのこれ以上ない場所なのだ。