Interview #06貧乏な模型屋に
降り注いだ福音

株式会社海洋堂
宮脇修一(センム)

模型なんて
練習したって
うまくなりません

これだけ世界的に名の知られた模型会社となった海洋堂だが、その実体はというと「今もバリバリの家族経営」であり、社員数41人という小さな会社のまま。素人からすれば意外にも感じるが、今どき造形師を目指して入社希望する若者も皆無だとか。

「自信たっぷりに『僕ウマいんで』ってやってくるカン違いとか、『ウチの息子、美術で金賞を獲ったんで才能あるから使って下さい』みたいな人はたまにきますけどね(笑)。でも、30年前にウチに集まってたようなヤツらは今ひとりも来ない。模型ってね、練習したからうまくなるってもんじゃないんです。技術そのものは磨かれることもあるけど、才能は変わらない。BOMEなんか、最初は技術的に全く使い物にならなかったもんね」

その採用基準は、「模型作りにどれだけ狂えるか?」という、生き様なのかもしれない。一方で模型業界全体を見渡せば、センムにもどうやら気になる存在がいるようだ。

「ゼネプロからワンフェスを引き継いだ僕らが昔気質のヤクザなら、最近はインテリヤクザみたいなビジネスに長けた新興メーカーもどんどん増えてる。その中でも一人勝ちしてるのが、グッドスマイルカンパニーやないですか? 代表の安藝(貴範)ちゃんがスゴいのは、彼は自分自身が模型を作るわけでもオタクなわけでもないのに、それが好きな人の気持ちがよく分かるし、そのうえでモノを作る連中のサポートをしようとしてるってこと。ああいう感覚でビジネスができてるプロデューサーは、他にまだいないですね。最大のライバルでもあるけれど、同時に彼は海洋堂の最大の理解者でもある。エヴァと僕らが狂ったことをやり続ける有志連合だとしたら、グッスマは同盟軍みたいな感じでとらえてるんです」

昔気質の、自分たちの好きなことばかりやっているダメダメな模型屋。それが、センムにとっての海洋堂のあるべき姿なのだという。

「次のワンフェスからは、3Dプリンタを使った模型がどんどん進化すると思う。タブレットやパソコンの中で、気軽に絵を描く感覚で造形できるようになったとき、新たな才能がグワーっと生まれるでしょうね。だからこの先5年くらいで、ワンフェスはもっとコミケのようになっていくと思うし、僕らとしてはそれを止めようもない。ただ僕自身は今のところ、自分の後継者を育てようとか、模型業界をどうにかしてやろうとか、近頃の若者がどうだとか、先のことなんか一切考えてません。経済誌見てたって、5年後10年後をエラソーに語ってる社長なんかそのうち全員つぶれてるでしょう(笑)。死んだらそこで終わりなんだから、これからもひたすらジタバタやっていく。着いてこられないヤツのことなんか、もう知るかと。これから庵野さんみたいな存在が業界のトップに立つようになったら、我々ももっとモノ作りしやすくなるんじゃないですか。すべては自分らの楽しみのためにやってる。それができない世界なんか、もう終わったっていいじゃないですか」

Column

  • 02
    2015年7月26日のワンダーフェスティバル

    当日は、エヴァTV初放映20周年を記念した巨大なブースが出現。歴代の名作フィギュアや、海洋堂が手がけた圧巻のジオラマ作品が展示された。

  • 03
    海洋堂の門番・白猫のマロ

    最後に、ここまで長いインタビューを読んでくれた人たちへのオマケ・コラムをお届けしよう。海洋堂では、昔から里親募集している猫を見つけてはその社屋で飼ってきた歴史がある。透き通った青い瞳に、ピュアな白毛が愛らしいマロ。しかしその性格は見た目と180度違う。猫なで声で甘えているかと思うと、突如として凶暴化し、なんと現在までに3人の社員を病院送りにしているのだとか(!)。腕に穴をあけるほどのその激痛は、噛まれたことのあるスタッフいわく「アイスピック並」。それでも、マロは社内外の人間たちから看板猫として愛され続けている。あるときはゴロゴロ、そしてまたあるときはガブリッ。毎日ビルの入り口で日向ぼっこをしている、海洋堂の頼れる門番なのだ!

株式会社海洋堂

株式会社海洋堂

「創るモノは夜空にきらめく星の数ほど無限にある」をキャッチコピーに、フィギュアの造形企画制作・販売を行う。
http://kaiyodo.co.jp/